2022年の国内販売ランキングの順位は、1位がN-BOX、2位にはヤリス、3位にはカローラとなるが、ヤリスには5車種、カローラには6種車種が含んだランキングであり、実質的な2位はルーミーになる。

 

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では何故この2台がバカ売れするか?「今の比較的若いお客様は、ミニバンを所有するご家庭で育った事情もあり、2列シート車でもスライドドアを好む。そのためにルーミーの人気が高まり、他社の軽自動車と比べて選ばれることも多い。

ルーミーの決め手は、5ナンバーサイズの小型車になること。軽自動車よりも全幅がワイドで安心感があり、乗車定員も5だから、4名の軽自動車に比べて実用性が高い。

例えば、孫が出来たとなると、両親と祖父母+孫となるため5人乗りが必要となる。その一方で価格は同タイプの軽自動車に近く、小型車のルーミーには割安感が生じている」

 

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 ミニバンは、ホンダの初代「ステップワゴン」などが発売された1990年代の中盤から、急速に普及した。このころに生まれ、幼少期からミニバンに親しんできた世代が今、子育てをしている。ミニバンの便利さを知っていて、馴染みやすさもあるから、軽自動車やコンパクトカーにも背の高いボディとスライドドアを求めるというわけだ。

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 ちなみに軽自動車のN-BOXやタントと、コンパクトカーのルーミーで維持費を比べた場合、1台だけを所有するなら税金にあまり差が生じない。金額がもっとも異なるのは自動車税(軽自動車税)だが、軽自動車は年額1800、ルーミーのような排気量1.0リッター未満のエンジンを搭載する小型車は、年額25000と大差がない。

 

 小型車のルーミーを選ぶユーザーも多いわけだが、ルーミーの類似車種として、スズキ「ソリオ」もある。しかし、同社は軽自動車ブランドのイメージが強いこともあり、販売台数はさほど多くない。小型車版の需要はルーミーに集中して、一人勝ちになっている。

 

 N-BOXの販売が絶好調なのはいいことだが、過度に売れると小型車が売れ行きを下げてしまう。フィットなどの需要を奪っている。実際に現行フィットの販売台数は、ライバル車のヤリス、トヨタ「アクア」、日産「ノート」などに比べて大幅に少ない。

 N-BOXとフィットは価格帯が重複するから、ホンダ車同士で比較され、N-BOXが選ばれてしまうことが多いのだ。

 

一方、TOYOTA視線になれば、ルーミーへの乗り替えは、軽自動車や『ヴィッツ』などのコンパクトカーだけでなく、『ノア』などからダウンサイジングするお客様も多い。しかし、ルーミーから上級移行するお客様は少ない。

 ルーミーは実用的なコンパクトカーだから、初心者ドライバーから子育て世代、高齢者まで幅広いユーザーに適する。クルマに趣味性を求めないのであれば、運転免許を取ってから返納するまで、ルーミーだけで済ませることも可能だ。

 極端なことをいえば、日本には軽自動車のN-BOXとコンパクトカーのルーミー、そして3列シートミニバンのノアがあれば、クルマに向けられる実用的なニーズはすべて満たせてしまう。

 

この背景には、新車価格が15年ほど前と比べて1.21.4倍に高まったこともある。2007年に販売されていたノアのXグレードは価格が2037000だったが、現行ノアのXグレードは267万円で、1.3倍になっている。それなのに日本の平均所得は、15年前とほとんど変わっていない。

 新車価格が上がった今、15年前のノアのXグレードと同じ200万円想定で新車を購入しようと思うと、候補に挙がるのはN-BOXカスタムL(1789700)、あるいはルーミーカスタムG(1924000)といった車種になる。

 

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例えば、もし、日産にCUBEが生き残っていたとしたら、このニーズにピタリ嵌る。「残っていれば‥」という仮説にすぎないが、面白いと思う。

日本人の所得収入が増えない限り、また、80年代のように若者が車を持つことがステイタスの時代ではなくなった昨今、ユーザーが求める車はスタイリングやパワーではなく、ほどほどの安全性があり、室内スペースに余裕があり、介護世代の意味からも昇降しやすいスライドドア志向が続くのは至極当然である…。